あなたの会社に「人事部門」はありますか?
人事担当者がいない状態は、会社が小さいうちは大きな問題になりにくいものです。ただ、従業員が30名、50名と増えるにつれて、採用のミスマッチや離職、人事評価への不満、管理職が育たないといった問題が少しずつ積み重なっていきます。

厄介なのは、問題が表に出たときには、すでに根が深くなっていることです。人事担当者をすぐに置けなくても、社長が抱えている人事の仕事を整理し、小さな仕組みから整えることで、リスクは早めに抑えられます。この記事では、人事担当者がいない企業で起こりやすい問題と、今日から打てる手を紹介します。

人事担当者がいない中小企業は珍しくない

従業員30〜100名ほどの会社で、人事担当者がいないこと自体は珍しくありません。採用は社長、手続きは総務、育成は現場の上司というように、人事の仕事を分担しながら回している会社は多くあります。

人事担当者がいないこと自体が問題なのではありません。問題になるのは、会社の規模や事業の変化に人事のやり方が追いつかなくなったときです。

10〜20名ほどの頃は、社長が全員の顔と仕事ぶりを把握できます。困っている社員がいれば、すぐに気づいて声をかけられます。ところが人数が増えると、社長の目が届かない場所が少しずつ増えていきます。それでも以前と同じやり方を続けていると、気づかないうちに問題がたまっていきます。

人事担当者がいないまま成長すると起こりやすい問題

人事担当者がいないまま会社が成長すると、採用・定着・評価・管理職育成・労務の5つの領域で問題が起こりやすくなります。どれか一つが目立つというより、少しずつ連鎖していくのが特徴です。

採用が場当たり的になる

欠員が出るたびに慌てて求人を出し、「とりあえず来てくれる人」を採ってしまう。人事担当者がいない会社でよく見られる流れです。

どんな人が必要かを整理しないまま採用すると、入社後に「思っていた仕事と違う」というずれが生まれやすくなります。採用にかけた時間と費用が、短期間の離職で消えてしまうこともあります。

社員が定着しない

入社後のフォローが手薄になると、社員は不安や不満を抱えたまま働くことになります。

社長が忙しく、面談の時間もとれない。上司も自分の仕事で手一杯。そんな状態が続くと、悩みを相談できる相手がいないまま、ある日突然退職の申し出が来るということが起こります。

評価への不満がたまる

評価の基準がはっきりしていないと、社員は「何を頑張れば認められるのか」がわかりません。

昇給や賞与が社長の感覚で決まっていると、本人に悪気がなくても「不公平だ」と受け取られることがあります。こうした不満は表立って言われにくく、気づいたときには職場の雰囲気に影響していることも少なくありません。

また当社でご支援させていただいているお客様で多いのも人事評価に対する不満です。評価への不満と言われると、「評価の割に給与が上がらない」「あの人より自分の方が頑張っているのに」という不満を想像しますが、最も多い不満は「評価制度がわからないので、どこを評価しているかがわからない」という評価云々ではなく、明文化に対する不満が多いのが特徴です。

管理職が育たず、社長に判断が集中する

管理職に何を期待するのかを伝えないまま任命すると、管理職は部下の育て方や判断の範囲がわからず、結局社長に相談が集まります。

社長が細かい判断まで抱え続けると、経営に使える時間が減っていきます。会社の成長が社長一人の時間で頭打ちになるのは、このためです。

労務トラブルの芽に気づきにくい

長時間労働や職場の人間関係、ハラスメントの兆しなどは、日々社員の様子を見ていないと気づきにくいものです。

小さな違和感の段階で拾えれば、話し合いで解決できることも多くあります。見過ごしたまま大きくなると、対応に多くの時間と労力がかかってしまいます。

人事担当者が不在だと、なぜ問題が表に出にくいのか

人事担当者が不在の会社で問題が表に出にくいのは、人の問題を日常的に見て、拾い上げる役割の人がいないからです。

売上や資金繰りの問題は、数字ですぐに見えます。一方で、社員の不満や育成の遅れは、数字に表れるまでに時間がかかります。退職者が続いたり、採用がうまくいかなくなったりして初めて、「何かおかしい」と気づくことが多いのです。

また、社員は社長に直接不満を言いにくいものです。社長が「うちは風通しがいい」と思っていても、社員の側は遠慮して本音を話していない場合があります。

問題が起きたとき、「あの社員は意欲が足りない」「最近の若手は続かない」と、個人の問題として片づけてしまうこともあるかもしれません。ただ、同じような問題が繰り返されるなら、人ではなく仕組みのほうに原因がある可能性を考えてみる価値があります。

人事担当者不在のリスクが大きくなりやすいタイミング

人事担当者不在のリスクが大きくなりやすいのは、会社の規模や体制が変わる節目です。次のような時期に差しかかっていたら、人事のやり方を一度見直してみることをおすすめします。

  • 従業員が30名を超えたころ:社長が全員の状況を把握しきれなくなり、部署やチームごとの管理が必要になってきます。
  • 従業員が50名に近づいたころ:常時50人以上の労働者がいる事業場では、衛生管理者や産業医の選任、ストレスチェックの実施などが法律で求められます。なお、ストレスチェックは法改正により、2028年4月から50人未満の事業場でも義務化されることが決まっています。
  • 管理職を初めて置くとき:役割や権限があいまいなままだと、管理職も部下も迷いやすくなります。
  • 新しい事業や拠点を立ち上げるとき:人の採用や異動が一度に増え、これまでのやり方では追いつかなくなります。
  • 退職が続いたとき:一人ひとりの事情は違っても、背景に共通の原因が隠れていることがあります。

節目を迎えてから慌てるよりも、少し手前の段階で準備を始めておくほうが、社長の負担も小さく済みます。

出典:ストレスチェック 全事業場での実施義務化 2028年4月で決定(労務ドットコム)

人事担当者がいない会社が早めに打てる手

人事担当者がいなくても、今の人事の状況を整理し、小さな仕組みを一つずつ整えることで、リスクはかなり抑えられます。いきなり大きな制度をつくる必要はありません。

社長が抱えている人事の仕事を書き出す

まずは、社長が今どんな人事の仕事を抱えているかを書き出してみてください。面接、入社手続き、面談、評価、昇給の判断、社員からの相談対応などです。

書き出してみると、「社長でなければできない仕事」と「仕組みがあれば他の人に任せられる仕事」が見えてきます。何を手放すかを考えるための、最初の材料になります。

定期的な面談の場をつくる

社員の小さな変化に気づくには、話を聞く場を決めておくのが効果的です。

立派な面談制度でなくてもかまいません。月に一度、上司と15分話す時間を決めるだけでも、不満や悩みを早めに拾えるようになります。大事なのは、忙しくても続けられる形にすることです。

期待する役割を言葉にする

評価や管理職育成の土台になるのは、「この立場の人に何を期待しているか」を言葉にすることです。

経営理念や事業の方向性から考えて、社員や管理職にどんな行動をとってほしいのか。まずは社長の頭の中にある期待を書き出し、本人に伝えるところから始めてみてください。それだけでも、評価への納得感や管理職の動き方が変わってくることがあります。

人事をバラバラに考えない

採用、配置、育成、評価、報酬、定着は、それぞれがつながっています。採用基準と評価基準がずれていれば、採用した人がうまく活躍できません。

一つの問題に手を打つときも、前後のつながりを意識しておくと、同じ問題を繰り返しにくくなります。

放置が危ないサイン

次のような状態がいくつも当てはまる場合は、人事の体制を見直す時期に来ている可能性があります。

  • 社長が面接・面談・評価のほとんどを一人で行っている
  • 入社1年以内に辞める社員が続いている
  • 評価や昇給の基準を、社員に説明できない
  • 管理職がいても、判断がほぼ社長に上がってくる
  • 社員と1対1で話す機会が、半年以上ない
  • 退職の申し出が来るまで、本人の不満に気づかなかったことがある
  • 人事のことを考える時間が、ほとんど取れていない

もちろん、当てはまる数が多いから必ず問題が起きるというわけではありません。会社の状況によって、優先して手を打つべきことは変わります。ただ、思い当たる項目があれば、早めに向き合っておくと安心です。

人事体制を見直すときの考え方

人事体制を見直すときは、「誰に任せるか」より先に、「何を任せたいのか」をはっきりさせることが大切です。

選択肢としては、人事担当者を採用する、既存の社員が人事を兼任する、人事を外注するといった方法があります。ただ、任せたい仕事が整理されていないまま体制だけ整えても、担当者が何をすればよいか迷ってしまいます。

たとえば、手続きや事務の負担が大きいのか。採用や育成、評価といった仕組みづくりが追いついていないのか。それによって、合う方法は変わります。

また、どれか一つに決める必要もありません。外部の力を借りて仕組みを整えながら、社内で人事を担える人を育てていく、という進め方を選ぶ会社もあります。自社の規模や課題に合わせて、無理なく続けられる形を考えてみてください。

まとめ

人事担当者がいない中小企業でも、すぐに大きな問題が起きるわけではありません。ただ、会社が成長するにつれて、採用・定着・評価・管理職育成・労務の問題が少しずつ積み重なり、表に出たときには対応が難しくなっていることがあります。

人の問題が起きたとき、社員本人の能力や意欲だけに原因を求めると、同じことが繰り返されがちです。人が動きやすい仕組みが整っているかどうかに目を向けると、打つべき手が見えてきます。

まずは社長が抱えている人事の仕事を書き出し、小さな仕組みから整えてみてください。

AIで業務を効率化できる時代になっても、組織を前に進めるのは結局、人です。株式会社Daysコンサルティングは、「中小企業の成長を『人』で止めない」という考えのもと、経営理念と事業戦略から逆算して人材戦略を考え、仕組みが現場で実際に回るところまで一緒に進めています。

よくある質問

Q1. 人事担当者がいないこと自体は問題ですか?

人事担当者がいないこと自体が、すぐに問題になるわけではありません。社長や総務、現場の上司で人事の役割を分担し、うまく回っている会社もあります。規模や事業の変化に、人事のやり方が追いついているかどうかが大切です。

Q2. 従業員何名くらいから人事担当者を置くべきですか?

明確な基準はありませんが、30名前後から社長が全員の状況を把握しにくくなる傾向があります。また、常時50人以上の労働者がいる事業場では、法律で求められる対応も増えます。人数だけでなく、社長がどれだけ人事に時間をとられているかもあわせて考えるとよいでしょう。

Q3. 社長が人事を兼任し続けると、何が問題ですか?

社長の時間が人事に取られ、経営の判断に使える時間が減ることが一番の問題です。また、社員が社長に本音を言いにくく、不満や悩みに気づくのが遅れることもあります。

Q4. 人事担当者がいない状態で、まず何から始めればよいですか?

まずは、社長が抱えている人事の仕事を書き出すことをおすすめします。そのうえで、定期的な面談の場をつくる、期待する役割を言葉にするなど、続けやすいことから始めてみてください。


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