人事評価制度が運用されない原因の多くは、制度の中身よりも「運用の仕方」にあります。評価する項目が多すぎる、評価する上司によって基準がばらつく、評価のあとに話し合う場がない。こうした小さなつまずきが重なると、制度は少しずつ形だけのものになって形骸化していきます。
立て直すときは、いきなり作り直すのではなく、今の制度のどこで止まっているかを確かめることが大切です。この記事では、中小企業で人事評価制度が運用されなくなる原因と、立て直し方を紹介します。
人事評価制度が運用されていないとは、どんな状態か
人事評価制度が運用されていない状態とは、評価制度はあるのに、評価が社員の成長や処遇の判断に使われていない状態のことです。評価シートを配って集めるだけの「作業」になっている場合も、これに当てはまります。
次のような状態に心当たりはないでしょうか。
- 評価の時期になると、上司が締め切りに追われてシートを埋めている
- 評価をつけても、結局は社長が昇給や賞与を決めている
- 評価結果を本人に伝える面談がない、または数分で終わる
- 評価項目が何年も見直されていない
- 社員が評価項目を覚えていない
- 「評価制度はあるけど、あまり意味がない」と社員が感じている
当てはまる項目が多いほど、評価制度が現場から離れてしまっている可能性があります。
人事評価制度が運用されない5つの原因
人事評価制度が運用されない主な原因は、制度の複雑さ、目的の伝わり方、評価者の慣れ、給与とのつながり、評価後の対話の5つです。多くの場合、一つではなく、いくつかが重なっています。
Daysコンサルティングが中小企業の経営支援の現場で集めた「100の事実」にも、評価にまつわるものが数多く含まれています。ここでは、その現場の声も交えながら原因を見ていきます。
人事評価制度が会社の規模に合っていない
中小企業が人事評価制度を作ろうとする時、ほとんどの場合がどこかのテンプレートを流用したり、セミナー等で聞いた内容をそのまま評価制度に落とし込むケースが多いです。しかし、そのモデルケースは大企業であることが多く、大企業の制度やひな形をそのまま取り入れると、中小企業では運用が重くなりがちです。
人事評価項目が数十個ある、等級が細かく分かれている、評価シートが何枚にもなる。こうした制度は、人事担当者がいない会社では、評価のたびに社長や管理職の負担になります。負担が大きい仕組みほど、忙しい時期に後回しにされやすくなります。
反対に、数字だけで細かく測る制度にも落とし穴があります。現場では、評価を定量化しすぎた結果、「やった・やらない」だけが議論になり、社員が評価に関わる仕事だけをこなす「点取り虫」になってしまった例も見てきました。
評価の目的が社員に伝わっていない
「なぜ評価をするのか」が伝わっていないと、評価は「査定されるもの」として受け取られます。
本来、評価は社員の成長を後押しし、頑張りに報いるための仕組みです。目的が伝わっていないと、社員は評価を気にして無難な行動をとるようになったり、評価そのものに関心を持たなくなったりします。
目的があいまいな会社でよく見かけるのが、「残業している人が偉い」「遅くまで残っている人の評価が上がる」と社員が思い込んでいる状態です。成果で評価するという方針が言葉になっていないと、社員は目に見えやすい頑張り方に流れていきます。
評価する上司が評価に慣れていない
中小企業では、評価者になる管理職が、評価の仕方を教わる機会がないまま評価をしていることが少なくありません。
同じ働きぶりでも、甘くつける上司(寛大化傾向)と厳しくつける上司がいれば、社員は不公平だと感じます。評価の直前の出来事だけで判断してしまう、全員に真ん中の点数をつけてしまう(中心化傾向)、といったことも起こりやすくなります。評価者個人の問題というより、評価者の目線をそろえる仕組みがないことが原因です。
現場でも、残業時間や会議での発言の多さから「やる気がある人」と判断し、評価を上げてしまう場面をよく見ます。事実ではなく印象で評価すると、社員には「社長に気に入られた人だけが評価される」と映りかねません。そうすると、会議の場ではどんどん「社長の正解探し」が始まります。うまくいっている会社では、何をしたかという事実をもとに、評価も称賛も注意もしています。
評価と給与・昇給のつながりが見えない
評価が給与や昇給、賞与にどう反映されるのかがわからないと、社員は評価を本気で受け止めにくくなります。
評価をしても、最終的に社長の感覚で給与が決まるなら、「評価をする意味がない」と思われても仕方ありません。すべてを計算式で決める必要はありませんが、評価と処遇のおおまかな関係は説明できるようにしておきたいところです。
年功序列ではない評価制度を導入したのに、最後の昇給の段階で、結局は年齢や勤続年数で決めてしまう。こうした会社も少なくありません。評価の結果と実際の処遇がずれると、社員は次の評価から本気で向き合わなくなります。
評価のあとに話し合う場がない
人事評価は、給与を上げるためだけのものではありません。退職者の離職理由の上位には「成長実感が湧かなかった」「どうすればキャリアアップができるのか明確ではなかった」という理由を現場で聞いています。評価結果を本人に伝え、次に何を頑張るかを一緒に考えてはじめて意味を持ちます。
点数だけが通知される、あるいは通知すらない状態では、社員は何を改善すればよいかわかりません。評価のあとの面談は省かれやすい部分ですが、社員の納得感に最も影響するところでもあります。
社員一人ひとりの目標を決め、定期的に振り返っている会社では、上司と本人の認識がそろっていきます。反対に、目標を決める場がない会社では振り返りもなく、評価の時期になって初めて「そんなつもりではなかった」というずれが表に出ます。
運用されない評価制度を放置すると起こること
運用されない人事評価制度を放置すると、社員の不信感が強まり、制度がない状態よりも悪くなることがあります。
「評価制度があります」と聞いて入社した社員が、使われていない制度を目にすると、会社の言うことを信じにくくなります。頑張っている社員ほど「きちんと見てもらえていない」と感じ、離れていくきっかけにもなります。
また、評価の記録が残らないと、昇給や昇格の判断が社長の記憶頼りになります。次の管理職を選ぶときにも、判断の材料がありません。
これは評価制度に限りません。たとえば、社員の誕生日を祝う制度をつくったのに、いつの間にか忘れられている会社がありました。社員からは「やらないなら、なくていい」という声が上がっていました。制度だけが残る状態は、制度がないよりも社員の気持ちを冷めさせてしまいます。
人事担当者がいない会社で起こりやすい問題については、人事担当者不在の中小企業に起こる問題とは?見直すべきタイミングとサインでも紹介しています。
人事評価制度を立て直す進め方
人事評価制度を立て直すときは、作り直す前に、今の制度のどこで止まっているかを確かめることから始めます。原因がわかれば、見直す範囲を小さく絞れることも多いからです。
1. どこで止まっているかを確かめる
まずは、前回の評価がどのように行われたかを振り返ります。評価シートは期限内に集まったか。上司ごとの点数にどのくらい差があったか。結果は本人に伝えられたか。社員や管理職に、評価制度について率直な意見を聞いてみるのも有効です。
2. 評価の目的を決め直す
次に、この会社で評価制度を何のために使うのかを決め直します。経営理念や事業の方向性から考えて、社員にどんな行動をとってほしいのか。その行動を後押しするのが、評価制度の役割です。目的が決まると、残す項目と外す項目も判断しやすくなります。
現場で見ても、評価制度がうまく回っている会社は、経営戦略と評価の中身がつながっています。一方で、止まっている会社は、制度がそもそもないか、あっても最後は社長の判断で決まっている状態がほとんどです。
3. 評価項目を絞り込む
評価項目は、多ければ良いというものではありません。会社として本当に大切にしたい行動や成果に絞ると、評価する側もされる側も、何を見ればよいかがはっきりします。項目を減らすことは、運用の負担を減らすことにもつながります。
4. 評価者の目線をそろえる
評価者向けの研修や、評価のすり合わせの場を設けて、上司ごとのばらつきを減らします。すり合わせの場とは、評価者が集まり、評価の理由を説明し合う時間のことです。何度か続けるうちに、評価の基準が少しずつそろっていきます。
5. 年間の予定に組み込む
評価、面談、すり合わせの時期を、年間の予定として先に決めておきます。予定に入っていないものは、忙しくなると後回しにされるからです。最初の1年は、予定どおりに回すことを一番の目標にしてもよいくらいです。
人事評価制度は作り直すべきか、見直しで済むか
人事評価制度は、多くの場合、ゼロから作り直さなくても見直しで立て直せます。ただし、会社の方向性と制度が大きくずれている場合は、作り直しを考えたほうがよいこともあります。
| 今の状況 | 考え方の目安 |
|---|---|
| 項目が多く、手間がかかりすぎる | 項目を絞る見直し |
| 上司によって評価がばらつく | 評価者研修・すり合わせの場を加える |
| 評価のあとの面談がない | 面談の仕組みを加える |
| 評価と給与のつながりを説明できない | 処遇との関係を整理する |
| 事業の内容や組織が大きく変わった | 作り直しも検討 |
| 制度の狙いを誰も説明できない | 作り直しも検討 |
どちらが合うかは、会社の状況によって異なります。迷う場合は、まず小さな見直しから始め、運用しながら判断する方法もあります。
まとめ
人事評価制度が運用されなくなる原因は、制度の中身だけでなく、回し方にあることが少なくありません。制度が規模に合っていない、目的が伝わっていない、評価者の目線がそろっていない、給与とのつながりが見えない、評価のあとに話す場がない。どれも、社員本人の意欲の問題ではなく、仕組みの問題です。
立て直すときは、作り直す前にどこで止まっているかを確かめ、小さく見直しながら、予定どおりに回すことを目指してみてください。評価制度は、作ることより運用し続けることのほうが難しいものです。
株式会社Daysコンサルティングは、経営理念と事業戦略から逆算して人事評価制度を考え、制度づくりだけでなく、評価者研修や面談の進め方など、実際に運用されるところまで支援しています。評価制度の見直しを考えている方は、人事評価制度構築支援のページもご覧ください。
よくある質問
Q1. 人事評価制度は、どのくらいの頻度で見直すべきですか?
決まった基準はありませんが、年に1回、評価が一巡したタイミングで振り返るのが一般的です。事業や組織が大きく変わったときも、見直しのよい機会になります。
Q2. 評価者研修は必要ですか?
評価する上司が評価に慣れていない場合は、効果が大きい取り組みです。研修の形でなくても、評価者が集まって評価の理由を説明し合う場を設けるだけで、ばらつきは減っていきます。
Q3. 評価結果は、給与に必ず連動させるべきですか?
必ずしも細かく連動させる必要はありません。ただ、評価が処遇にどう反映されるのか、おおまかな関係は社員に説明できるようにしておくと、納得感が高まります。
Q4. 小さな会社でも人事評価制度は必要ですか?
社長が全員の働きぶりを見られる規模なら、複雑な制度は必要ないこともあります。ただ、20名前後から社長の目が届きにくくなるため、簡単なものからでも評価の基準を言葉にしておくと、その後の運用が楽になります。
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